(音声:おおわん はるさん)
ものごとは 見る角度によって、
まったく違う色に 見えたりする。
何が正しくて、
何がまちがっているのかは
歴史が 判断するのだろうが、
その歴史も 誰が書くかによって
違うものになる。
どんな理由があっても
他国を 武力で侵攻するのは
絶対に許されない。
ロシアによる ウクライナへの攻撃は
街を破壊し 多くの犠牲者を
出している。
その蛮行は どんなに非難されても
足りるものではない。
そんなことは
わかっているはずだと思うのに、
なぜ プーチン大統領は
戦争を始めたのか。
なぜ 多くのロシア国民は
プーチン大統領を 支持しているのか。
大統領個人の
特異なキャラクターや精神状態、
ロシア国内での言論弾圧を
理由にするだけでは
説明がつかないと思う。
開戦直前に プーチン大統領が
ロシア国民に向かって 演説をした。
日本語に翻訳すると
9000文字を超える 長い演説である。
それを読むと、ソ連崩壊を経験した
ロシアの指導者の目に
アメリカや 西側諸国が
どのように映っているのかが
よくわかる。
「国連安保理の承認なしに、
ベオグラードに対する
流血の軍事作戦を行い、
ヨーロッパの中心で
戦闘機やミサイルを 使った。
数週間にわたり、
民間の都市や 生活インフラを、
絶え間なく爆撃した」
「リビアに対して
軍事力を 不法に使い、
国家は 完全に崩壊し、
国際テロリズムの巨大な温床が生まれ、
長年にわたる 内戦の沼に
はまっていった。
数十万人、数百万人もの人々が陥った悲劇は、
北アフリカや中東から
ヨーロッパへ 難民の大規模流出を
引き起こした」
「中でも特別なのは、
何の法的根拠もなく行われた
イラク侵攻だ。
アメリカの国務長官が、
全世界を 前にして、
白い粉が入った試験管を 振って見せ、
これこそが イラクで開発されている
化学兵器だと 断言した。
後になって、
それはすべて デマであり、
はったりであることが 判明した。
イラクに化学兵器など
存在しなかったのだ」
これらは すべて事実だ。
1999年、アメリカや西側諸国からなる
北大西洋条約機構(NATO)の軍隊は
旧ユーゴスラビアの首都ベオグラードを
空爆して 街を破壊し
多くの犠牲者を 出した。
2001年のリビア内戦、イラク戦争も
アメリカを中心とする NATO加盟国の
軍事介入によって
多大な犠牲と 混乱を引き起こした。
イラク侵攻をめぐる
アメリカ主導のデタラメぶりは
まだ記憶に新しいだろう。
だからと言って、
ロシアのウクライナ侵攻が
許されるわけでは 絶対にない。
ただ、プーチン演説を 読んでいると
(そこには書かれていないが)、
アメリカが ベトナムや
中南米諸国に対して
何をやってきたのかということも
思い起こされる。
イギリスやフランスが
アフリカでやってきたことも
忘れることはできない。
少なくとも ロシアは
中南米やアフリカに
軍事侵攻したことはない。
どこから見るかで
地球の色は まったく変わる。
日本は アメリカの同盟国、
自由と民主主義の価値観を 共有する
西側諸国の一員。
だから、アメリカや西側諸国の
過去のあやまちを
批判してはいけない?
ロシアと違って 思想や言論の自由を
保障されているのだから、
そのありがたさを生かして、
自らの陣営について
もっと語るべきだと思う。
そうでなければ、
不可解に思えるロシアの
ウクライナ侵攻を
理解することは できない。
日本のマスコミ報道は、
アメリカや 西側陣営の
価値観のフィルターを
通したものばかりだが、
ネットを見れば
いろんな角度からの情報を
得ることができる。
ロシアを 仮想敵国や悪役にした
ハリウッドのスパイ映画に慣れた目には
なじまないかもしれないが、
ものごとを 深く理解するためには、
不愉快な情報も
読んだり 見たりすることが
必要ではないか。
(文:理事長・野澤 和弘)