
(音声:天馬 トモエさん)
いったい どこまで本気なのか。
就任早々、トランプ大統領は
政府職員の大量削減、
不法移民の送還、対外援助の凍結などを
次々に 打ち出しては
世界を 揺るがせている。
極めつけは 多くの国に対する
関税の 大幅引き上げだ。
さすがに まずいと思ったのか
中国を除いては
高関税の上乗せの 一部凍結を 発表したが、
市場の動揺は 収まらず、
世界の企業や政府を 戦々恐々とさせている。
いち早く トランプ政権との
個別交渉に 臨んだのが
日本の 石破政権だった。
関税だけでなく
在日米軍の負担に関することも
議題になったという。
トランプ氏の顔色を うかがいながら
少しでも 高関税を緩和してもらうか、
アメリカ以外の国々との 貿易に
活路を見出すか。
日本だけでなく、いずれの国も
大きな岐路に 立たされている。
トランプ大統領が
真に目指しているものは 何なのだろうか。
アメリカの貿易赤字を 解消し、
国内産業(労働者)を
守ろうとしているのは わかるが、
多くの企業が
世界中に 製造拠点を分散させる
グローバル・サプライチェーンは
成熟し 定着している。
各国に 高関税を課せば
不利益の風は アメリカの企業や
消費者にも 向かってくる。
メディアには そんな批判があふれるが、
返り血を 浴びることなど
織り込み済みなのだろう。
その先に トランプ氏が
どのような世界を 描いているのか。
グローバリゼーションに
急激なブレーキを かけて
アメリカを どのような国に
作り変えようとしているのか、
世界の国々が どのように変容するのか。
それが気になる。
トランプ氏が
初めて大統領選(2016年)に出馬した際、
「グローバリゼーション・ファティーグ(疲労)」
という概念を 唱えたのは
エマニュエル・トッド氏だった。
フランスの 歴史人口学者である。
新自由主義による
自由貿易の 行き過ぎが
各国間の格差、
それぞれの国内の 社会格差を
もたらしていること、
欧米先進国への 移民の大量流入による混乱に
人々は疲れ切っている というのである。
当時は 泡沫候補と目されていたトランプ氏が
大統領になると トッド氏は予言した。
一期目で トランプ氏が挫折した後も、
大きな流れは 変わらないと
トッド氏は 言い続けた。
私は 2016年と17年に パリで
トッド氏に インタビューする機会を得た。
イギリス国民が EU脱退を支持し、
アメリカ国民が トランプ氏を選ぶなど、
グローバリゼーションを
忌避する流れは 変わらない。
トッド氏の主張は 微塵もブレがなかった。
たしかに 自由貿易は
輸出企業や 多国籍企業の業績を
押し上げてきた。
関連の中小企業も 含めて、
そこで働く人々の雇用を 生み、
税収増は 医療や福祉など
国民の暮らしを支える財源にも
回されてきた。
私たちは 安い輸入品を
近くのスーパーで買うことも
できるようになった。
一方、富は 一部の巨大企業や
金持ち層に 集中し、
貧しい層は 増えていき、
その格差も 広がっている。
コスト競争では
途上国に 太刀打ちできない
国内の第一次産業や
自営業は 衰退を余儀なくされた。
少子高齢化と 人口の都市集中も相まって
地方の町は 見る影もないほどだ。
もしも グローバリゼーションに
歯止めが掛かり、
モノも 金も 人も
それぞれの国内に 向かうようになったら
どうなるだろうか。
自由貿易の恩恵に あずかることができない
大企業と 関連企業は 業績が悪くなり、
役員らの高給料を 見直し、
人員整理や 内部留保を
吐き出さざるを 得ないかもしれない。
消費者にとっては 貧しく、不便で、
退屈な毎日になるだろう。
しかし、農業や水産業などの 第一次産業や
ローカル経済を支える
中小零細企業や 自営業には
追い風が 吹くだろう。
こうした仕事は
カネを生み出す産業としては
弱いかもしれないが、
地域に密着して
人々の暮らしを支える役割を 担っている。
暮らしそのものと言ってもいい。
安心や 信頼や 充足感などが 地域から失われ、
孤立や疎外が
人々を不安にさせてきたことを 思えば、
悪いことばかりではない。
成長を求めて
欲望が 膨らみ続ければ 世界は破綻する。
「もしも人類が
未来も 存続できるのだとすれば、
それは『心地よい停滞』を
我々が 引き受けられるか どうかに
かかっている」というのは
ローマ文明の研究者で
元文化庁長官の 青柳 正規 氏である。
暴走する新自由主義経済に 歯止めを掛け、
欲望を捨てて
「心地よい停滞」を
引き受けることなど できるのだろうか。
もしも、そんなことが できるとすれば、
世界中の国家や 企業に
にらみをきかせて
支配することができる
全知全能の神か 大魔王しかいない。
高度な 金融システムや
複雑な 多国籍の産業ネットワークを 崩壊させ、
身近な地域に 根付いた仕事と 暮らしに
人々の価値観の重心を 移す。
そんな暴力的な大変革を
地球規模で 行うようなことができる
大魔王など 出現するだろうか。
もしも それに近いものが あるとするならば、
今のところ トランプ氏のほかには
誰も浮かばない。
(文:代表・野澤 和弘)
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